Vanadiumに広告ブロックを「入れるべきか」実はもう入っています
アンチスパイフォンを使い始めた人がほぼ必ずぶつかる疑問があります。
「標準ブラウザのVanadiumにuBlock Originみたいな広告ブロッカーを入れられないの?」
というものです。
先に結論をお伝えします。
- Vanadiumには広告ブロック機能がすでに組み込まれています。 追加インストールは不要です。
- 拡張機能(uBlock Originなど)は使えず、今後も対応予定はありません。 これは手抜きではなく、意図的な設計判断です。
- 組み込み機能で物足りない場合の補強手段は DNSフィルタリング が基本です。
「入れるべきか」という問いは、正確には「組み込みのブロック機能で足りるか、足りないなら何で補うか」という問いに置き換わります。
この記事では、その判断に必要な3つの概念——組み込みフィルタ、DNSフィルタ、そしてフィンガープリンティング——を初心者向けに整理します。
Vanadiumに組み込まれている広告ブロック
Vanadiumは2024年初頭のバージョン122から、コンテンツフィルタリング(広告ブロック)機能を内蔵しています。
中身は、世界中の広告ブロッカーで標準的に使われているフィルタリスト「EasyList」と、トラッカー対策の「EasyPrivacy」、広告ブロック検知警告を消す「Adblock Warning Removal List」の組み合わせです。
ブラウザの言語設定に応じて地域別リストが追加される仕組みもあります。
特徴的なのは運用方法です。
- サイトごとにオン/オフを切り替えられる(表示が崩れたサイトだけ無効化できる)
- フィルタの中身は全ユーザー共通で、Vanadium Configアプリ経由で自動更新される
- ユーザーが自分でフィルタリストを追加・カスタマイズすることはできない
「カスタマイズできないのは不便では?」と感じるかもしれませんが、これには後述するフィンガープリンティング対策上の明確な理由があります。
正直なところ、uBlock Originほどは消えません
期待値の調整をしておきます。組み込みフィルタには現時点で2つの限界があります。
1. コスメティックフィルタ(要素非表示)に未対応。
広告の通信そのものをブロックすることはできますが、「広告が入るはずだった枠」を消す機能がまだありません。
そのため、広告は読み込まれないのに空白やプレースホルダーが残る、といった表示になることがあります。
アンチスパイフォンは、より高度なフィルタルールとコスメティックフィルタに対応した新しいフィルタエンジンへの移行を将来計画として公表しています。
2. 日本語サイトへの対応が手薄になりやすい。
EasyListは原則として英語圏サイト向けのリストで、日本語圏にはEasyListと公式提携したフィルタリストが存在しません(日本語圏で広く使われるのはAdGuard日本語フィルタや豆腐フィルタなど、別系統のリストです)。
Vanadiumの地域別リストは「EasyListの公式地域リスト」をベースにしているため、日本のサイト特有の広告ネットワークはカバーが限定的になると考えられます。
日本語サイト中心の使い方だと「思ったより消えない」と感じる可能性が高い、というのが現実的な見立てです。
なぜ拡張機能が使えないのか
Chromiumベースなのだから拡張機能くらい対応できるのでは、と思うのが自然です。
しかしGrapheneOSは公式に「拡張機能サポートの予定はない」と明言しています。
理由は2つです。
- サイト分離(site isolation)との相性が悪い。 拡張機能はすべてのサイトの内容に触れられる強力な権限を持ちます。これはサイト同士を厳密に隔離するというVanadiumのセキュリティモデルと根本的に衝突します。拡張機能そのものが攻撃対象や情報漏洩の経路にもなりえます。
- フィンガープリンティング対策と両立しない。 これが次のセクションの本題です。
フィンガープリンティング——「設定をいじるほど目立つ」という逆説
フィンガープリンティング(ブラウザ指紋)とは、Cookieを使わずにユーザーを識別する追跡手法です。
ブラウザの種類、バージョン、画面サイズ、フォント、そして「どんな広告ブロック設定をしているか」——こうした構成の組み合わせは、意外なほど人によってバラバラで、指紋のように個人の識別に使えてしまいます。
ここで直感に反する事実があります。
プライバシー設定を自分好みにカスタマイズするほど、あなたのブラウザは「珍しい構成」になり、識別されやすくなるのです。
- uBlock Originに独自のフィルタリストを10個追加した人のブラウザは、「どのリクエストをブロックするか」のパターンthat自体が世界で数人しかいない構成になりえます。
- 逆に、全員がまったく同じ構成のブラウザを使っていれば、サイト側からは誰が誰だか区別できません。群衆に紛れるのが最強の防御です。
Vanadiumがフィルタのカスタマイズを許さず、全ユーザーに同一のフィルタを配信しているのは、まさにこの「全員同じ構成を保つ」戦略のためです。
拡張機能を許可すれば、ユーザーごとに構成がバラけてこの前提が崩れます。
アンチスパイフォンも、プライバシー機能は「オプトインで有効化させる」のではなく「デフォルトで有効にし、必要なサイトだけオプトアウトさせる」方針を明言しています。
ユーザーが設定を触るほど識別材料が増えるからです。
つまり「Vanadiumに広告ブロックを足したい」という発想でブラウザ構成を個別にいじることは、広告は減っても追跡耐性を下げる方向に働きうる、ということです。
補強するならDNSフィルタリング
組み込みフィルタで足りない場合の第一候補は、ブラウザの外側、つまりネットワークのレベルでブロックする方法です。
代表がDNSフィルタリングです。
DNSは「ドメイン名をIPアドレスに変換する電話帳」のような仕組みで、DNSフィルタリングは広告配信ドメインへの問い合わせに「そんな住所はありません」と答えることで通信自体を発生させなくします。
設定は簡単で、Android標準の「プライベートDNS」にAdGuard DNSなどのフィルタリング対応リゾルバを指定するだけです。
利点は次のとおりです。
- ブラウザの構成を一切変えないため、Vanadiumのフィンガープリンティング対策を崩さない
- ブラウザだけでなくアプリ内広告にも効く(ドメイン単位でブロックできるものに限る)
一方で限界もあります。
- ドメイン単位のブロックなので、コンテンツと同じドメインから配信される広告(YouTube広告が典型)は消せない
- ページ内の広告枠を非表示にする機能はない
- どのDNSサービスを信頼するかという新しい判断が発生する(DNS事業者にはアクセス先ドメインの一覧が見えます)
VPNを使っている場合の注意
ひとつ重要な注意点があります。GrapheneOSは、VPN利用時にプライベートDNSを併用しないことを推奨しています。
プライベートDNSは端末全体のグローバル設定で、プロファイルごとのVPN設定と不整合を起こすためです(複数プロファイル運用をしている方は特に注意してください)。
VPNとDNSフィルタリングを両立させたい場合、GrapheneOSのFAQが挙げているのがRethinkDNSです。
誤解されがちですが、RethinkDNSはAdGuard DNSのような「DNSリゾルバサービス」ではなく、端末上で動作するクライアントアプリ(ファイアウォール)で、端末内でのDNSベースのフィルタリングとWireGuard VPNへの直接接続を1つのアプリで両立できます。
なお、HTTPS通信を復号して中身まで検査するタイプのフィルタリングアプリ(AdGuardアプリのHTTPSフィルタリング機能など)は、暗号化の安全性を弱めるためGrapheneOSは推奨していません。
「別のブラウザを入れる」という選択肢はどうか
BraveやCromiteなど、強力な広告ブロックを内蔵したブラウザをインストールする手もあります。
表示上の快適さでは現状これが最も効果的なのは事実です。ただしトレードオフがあります。
- Vanadiumが持つGrapheneOS固有のセキュリティ強化(強化されたサンドボックス、JIT無効化のデフォルトなど)の恩恵を受けられない
- GrapheneOS上で少数派のブラウザ構成になるため、フィンガープリンティングの観点では目立ちやすくなる面がある
「セキュリティと追跡耐性を最優先する閲覧はVanadium、広告まみれで読めないサイトだけ別ブラウザ」のような使い分けは現実的な妥協案ですが、初心者のうちはまずVanadium+DNSフィルタで運用してみて、本当に困ってから検討するのがよいでしょう。
まとめ:選択肢の整理
| 方法 | 広告ブロック効果 | フィンガープリンティングへの影響 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Vanadium組み込みフィルタ | 中(コスメティック未対応・日本語サイトは限定的) | なし(全員同一構成) | 追加設定不要。デフォルトで有効 |
| DNSフィルタ(プライベートDNS) | 中(ドメイン単位のみ) | 小(ブラウザ構成は不変) | VPN併用時は非推奨 |
| RethinkDNS(クライアントアプリ) | 中(ドメイン単位のみ) | 小 | VPNとフィルタを両立したい場合 |
| 拡張機能(uBlock Origin等) | — | — | Vanadiumでは使用不可・対応予定なし |
| 広告ブロック内蔵の別ブラウザ | 高 | あり(少数派構成になる) | Vanadiumのセキュリティ強化は失う |
冒頭の問いに戻ります。
「Vanadiumに広告ブロックを入れるべきか」
入れる必要はありません。すでに入っています。
そして「もっと強くしたい」と思ったときは、ブラウザの中をいじるのではなく、DNSという外側の層で補うのがGrapheneOSの設計思想に沿ったやり方です。
広告を1つ残らず消すことと、追跡されにくさを保つことは、実は少し違う目標なのだ——この区別を持ち帰っていただければ、この記事の目的は達成です。


