電話番号?そんなの要りません「名無しで使える」メッセンジャーSimpleX入門
TL;DR(忙しい人向けまとめ)
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SimpleX Chatは、電話番号もメールアドレスも、ユーザーIDすら存在しないメッセージアプリです
- LINEやSignalと同じく、メッセージは端末間で暗号化(エンドツーエンド暗号化)されます
- それに加えて「誰が誰と話しているか」というつながりの情報(メタデータ)まで隠せるのが最大の特徴です
- 弱点は「友だちを誘うのがちょっと大変」なこと。招待リンクかQRコードを直接渡す必要があります
- Android版はGoogleのプッシュ通知サービスに依存しないため、GrapheneOSと非常に相性が良いアプリです
「アカウント登録不要」どころか「アカウントという概念がない」
メッセージアプリを新しく始めるとき、最初にやらされるのは何でしょうか。
そう、電話番号の入力です。
SMSで届いた6桁の数字を打ち込んで、「はい、あなたは確かにこの番号の持ち主ですね」と確認されて、ようやくスタートラインに立てます。
プライバシー重視で有名なSignalですら、登録には電話番号が必要です。
「プライバシーを守りたいので、まず身元を教えてください」と言われているようで、ちょっとモヤッとしますよね。
SimpleX Chatは、ここが根本から違います。
- 電話番号:不要
- メールアドレス:不要
- ユーザー名:不要
- ランダムなID番号:それすらない
「IDがないのにどうやってメッセージが届くの?」と思った方、良い質問です。
高校の情報の授業でも出てこないレベルの発想なので、たとえ話で説明します。
たとえるなら「名無しで借りられる、友だち専用の私書箱」
普通のメッセージアプリは、郵便局に本名で私書箱をひとつ借りるようなものです。
あなた宛ての手紙は全部そこに届きます。
便利ですが、郵便局は「この私書箱は誰のものか」「誰から誰に手紙が届いたか」を全部知っています。
SimpleX Chatは、こうです。
- 友だちができるたびに、名無しで新しい私書箱を借ります(しかも受信専用)
- その私書箱の場所は、その友だち一人にしか教えません
- 別の友だちには、別の私書箱を用意します
- 私書箱を管理するサーバーは、「箱に何か入った・出た」ことしか分かりません。
箱の持ち主が誰か、そもそも知らないのです
つまり、友だちが10人いれば私書箱も(送受信で)20個。
「面倒くさそう」と思うかもしれませんが、この私書箱の管理は全部アプリが裏でやってくれます。
あなたがやるのは普通にチャットするだけ。
裏で執事が私書箱を無限に契約してくれている、と考えてください。
執事の名前はSimpleXです。無給で働いてくれます。
技術的に言うと、SimpleXは「一方向のメッセージキュー」という仕組みを使っていて、送信用と受信用で別々のサーバーを経由させることもできます。
サーバー側から見ると、暗号化された荷物が右から左に流れていくだけで、会話の全体像はどこにも存在しません。
主要アプリとの比較表
| LINE | Telegram | Signal | SimpleX Chat | |
|---|---|---|---|---|
| 登録に必要なもの | 電話番号 | 電話番号 | 電話番号 | 何もなし |
| ユーザーID | あり | あり(ユーザー名) | あり(番号ベース) | 存在しない |
| E2E暗号化 | 一部(レターシーリング) | 秘密チャットのみ | 全メッセージ | 全メッセージ |
| メタデータ保護 | △ | △ | ○ | ◎ |
| 連絡先の保存場所 | サーバー | サーバー | サーバー(暗号化) | 自分の端末のみ |
| 友だちの見つけやすさ | ◎ | ◎ | ○ | △(ここが弱点) |
※Telegramの暗号化事情について詳しくは、当ブログの比較記事もどうぞ。
https://antispy.shop/blogs/news/telegram-signal
SimpleXの5つのメリット
1. SMS認証が要らない=SIMなしタブレットでも使える
電話番号が不要ということは、SMSを受け取れない端末でも使えるということです。
SIMを挿していないタブレット、Wi-Fi専用の中古スマホ、データ通信専用SIMの端末 全部OKです。
「格安のデータ専用SIMで運用しているサブ機にメッセージアプリを入れたい」という、当ブログの読者の方なら一度は通る道にも、すんなり対応できます。
2. 「誰と話しているか」が漏れない
暗号化メッセンジャーの多くは、メッセージの中身は守ってくれますが、「AさんとBさんが毎晩23時にやり取りしている」という事実はサーバーが把握しています。
これがメタデータです。
中身が読めなくても、メタデータだけで分かることは意外と多いのです。
「毎晩23時に特定の相手と長時間通話」……はい、いろいろ察しますよね。
SimpleXはユーザーIDが存在しないため、サーバー側でこの「つながりの地図」を描くこと自体が困難な設計になっています。
3. 暗号化が最新レベル(量子コンピューター対策済み)
SimpleXはSignalと同系統のダブルラチェットという暗号方式に加えて、耐量子暗号(将来の量子コンピューターでも解読が難しいとされる方式)を組み合わせています。
また、セキュリティ企業Trail of Bitsによる第三者監査を2022年と2024年に受けています。
「安全です!(当社調べ)」ではなく、外部のプロに検証させているのは信頼できるポイントです。
4. データは全部、自分の端末の中
連絡先もメッセージ履歴も、サーバーではなくあなたの端末に暗号化されて保存されます。
サーバーが押収されても、流出しても、そこにあなたの連絡先リストは存在しません。
ないものは漏れようがない。こ
れ以上ないシンプルな防御です。
5. アンチスパイフォンとの相性が抜群
ここは Antispy.shopとして外せないポイントです。
多くのメッセージアプリの通知は、Googleのプッシュ通知サービス(FCM)経由で届きます。
しかしSimpleXのAndroid版は、Googleのサービスに一切依存せず、アプリ自身のバックグラウンド常駐で通知を受け取る設計を選べます。
つまり、Sandboxed Google Play を入れていないプロファイルでも、通知が普通に届きます。
「Googleなしで完結するメッセンジャー」を探していた方には、まさにドンピシャです。
正直に言います:デメリットもあります
良いことばかり書くのは当ブログの流儀に反するので、弱点もきちんと挙げます。
弱点1:友だちがいない(アプリの中に)
最大の弱点です。
ID検索がない=偶然の出会いも検索も一切ないので、連絡を取りたい相手には招待リンクかQRコードを直接渡す必要があります。
そして渡した相手に「なにこのアプリ、LINEでよくない?」と言われる確率は、体感でかなり高めです。
プライバシーの世界では、匿名性の高さと普及率はだいたい反比例します。
SimpleXは「本気で必要な相手と、本気の連絡手段を持つ」ためのアプリだと割り切りましょう。
弱点2:通知まわりにクセがある
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iOS版は、Appleのプッシュ通知サーバーを経由する必要があり、設計上の制約があります(SimpleX側は改善に取り組んでいます)
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Android版は、即時通知のためにバックグラウンド常駐を使うと、1日あたり数パーセント程度バッテリーを余分に消費すると案内されています
「常駐なんてバッテリーの敵!」と思うかもしれませんが、Google経由の通知を捨てて自前で受け取るための、いわばプライバシーの電気代です。
弱点3:機種変更・複数端末がひと手間
アカウントがサーバーにない、ということは、機種変更のときに「ログインすれば全部戻る」ができないということでもあります。
端末内のデータベースを自分でエクスポート・移行する必要があります。
バックアップの考え方については、Seedvaultの記事の思想がそのまま応用できます。
弱点4:完璧な匿名ツールではない
SimpleXはIPアドレスまで自動で隠してくれるわけではありません(v6.0以降の「プライベートメッセージルーティング」で、未知の中継サーバーからIPを保護する仕組みは入っています)。
通信経路の匿名性を高めたい場合はTor経由での接続にも対応していますが、これは中級者向けの話。まずは「IDレスのメッセンジャー」として使うだけでも十分な価値があります。
どんなアプリにも言えることですが、「これさえ使えば完全に安全」というツールは存在しません。
SimpleXも例外ではなく、端末自体が危険な状態なら意味がありません。
導入方法(5分で終わります)
アンチスパイフォンの場合
インストール経路は3つあります。プライバシー意識の高い順に並べます。
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GitHubのリリースページからAPKを直接入手(Obtainium併用がおすすめ)
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F-DroidまたはAuroraStoreからインストール
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Google Playストアからインストール(いちばん簡単)
アンチスパイフォンユーザーなら1か2が自然な選択です。
もちろんPlayストア経由でも中身は同じです。
パソコンの場合
Windows / macOS / Linux向けのデスクトップアプリが公式サイトから入手できます。
スマホ版とはプロファイルを連携させて使うこともできます。
初期設定と使い方
ステップ1:プロフィールを作る
アプリを開くと、表示名の入力を求められます。ここで重要なお知らせです。
この名前は、サーバーには一切送信されません。
あなたの端末と、あなたが繋がった相手の端末にだけ保存されます。
つまり本名でも「大将軍」でも「たかし(仮)」でも、誰にも怒られません。
ただし相手の画面にそのまま表示されるので、就活の連絡用に「大将軍」はおすすめしません。
ステップ2:友だちと繋がる
繋がり方は2通りです。
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その場にいる相手:片方がQRコードを表示し、もう片方が読み取る
- 離れている相手:「1回限りの招待リンク Creat 1-time link」を作って、別の手段(メール、他のアプリなど)で送る
この招待リンクは1回使ったら無効になる使い捨てです。
万一リンクが第三者に見られても、先に友だちが接続してしまえば悪用できません。
ステップ3(任意):SimpleXアドレスを作る
「不特定多数から連絡を受け付けたい」場合(ブログの連絡先など)は、繰り返し使える「SimpleXアドレス」を作成できます。
スパムが来たら、アドレスごと削除して作り直せます。
アドレスを消しても、既存の友だちとの接続は一切切れません。
私書箱を解約しても、すでにできた友だちとの専用ルートは残る、というわけです。
ステップ4:覚えておくと便利な機能
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シークレットモード(Incognito mode):新しい相手と繋がるとき、ランダムな名前を自動生成して本来のプロフィール名を隠せます。相手ごとに別人格、が公式機能です
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消えるメッセージ:指定時間後にメッセージを自動削除
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非表示プロフィール:パスコードを入れないと存在すら見えないプロフィールを作れます
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自己破壊パスコード:特定のパスコード入力でデータを消去する機能もあります(このあたりの考え方はDuress PINの記事と通じるものがあります)
https://antispy.shop/blogs/news/duresspassmovie
こんな人に向いています/向いていません
向いている人
- 電話番号を教えたくない相手と、安全に連絡を取りたい人
- SIMなし端末・データ専用SIMで運用したい人
- GrapheneOSでGoogleなしの通知環境を作りたい人
- 「メッセージの中身」だけでなく「誰と話しているか」まで守りたい人
向いていない人(今はまだ)
- 家族や学校・職場の連絡をこれ1本にまとめたい人(相手が使ってくれません)
- 機種変更のたびの手作業が絶対に嫌な人
- 通知は1秒たりとも遅れてほしくないiPhoneユーザー
まとめ:公開前チェックリスト(あなた用)
SimpleXを使い始めるときの確認リストです。
- [ ] インストール元を選んだ(GitHub / F-Droid / 公式ストア)
- [ ] プロフィール名に個人を特定できる情報を入れていない
- [ ] 招待リンクは信頼できる経路で渡した
- [ ] Androidの場合:通知方式(常駐 or 定期チェック)を自分の使い方に合わせて選んだ
- [ ] データベースのバックアップ方法を確認した(機種変更で泣かないために)
- [ ] 「SimpleXを使えば無敵」ではないことを理解した(端末側の守りも忘れずに)
電話番号もIDもない世界は、最初はちょっと不便です。
でもその不便さは、「あなたの人間関係の地図を、誰のサーバーにも渡さない」ことの対価です。
まずはサブの連絡手段として、気の合う友だち一人と試してみてください。
招待リンクを渡すとき、この記事も一緒に渡していただけると、説明の手間が省けるかもしれません。


